糖尿病医の糖尿病日記

糖尿病(MODY3)の糖尿病医が糖尿病の記事を書きます.

GLP-1受容体作動薬は,糖尿病薬だけではなく減量薬としても有効?

この論文をひとことでまとめると:

現在は2型糖尿病の治療としてのみ使用できるGLP-1受容体作動薬は,糖尿病ではない方でも安全で効果的な減量効果があることがわかりました.

今回ご紹介する論文は,GLP-1受容体作動薬を糖尿病ではない方に使用した場合の減量効果についての報告になります.

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GLP-1受容体作動薬とは?

GLP-1受容体作動薬は,インクレチン関連薬の一つです.

人が食事をすると,食べたものが胃や腸の中を通ります.
その刺激を胃や腸が感知し,伝達物質を放出し,「食べ物が通ったからもうすぐ血糖が上がりそう」なことを全身に知らせます.

この伝達物質がインクレチンです.

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インクレチンがすい臓に作用すると,インスリンが分泌され血糖値を下げます.同様に,脳に作用すると,食欲が抑えられますので,体重減少効果があります.

現在わかっているインクレチンは,GLP-1(Glucagon-Like peptide-1), GIP(Glucose dependent insulinotropic polypeptide)の2種類です.

現在発売されているインクレチン関連薬として,

  • DPP-4阻害薬
    (エクア®,グラクティブ®,ジャヌビア®,テネリア®,トラゼンタ®,ネシーナ®など)
  • GLP-1受容体作動薬
    (オゼンピック®,トルリシティ®,ビクトーザ®,リキスミア®など)

があります.

うち,GLP-1受容体作動薬は,食欲抑制効果が強いため,結果的に減量効果があり注目されています.また,長らく注射剤が使用されていましたが,リベルサス®という内服薬が発売され注目されています.(過去記事をご参照ください)

日本においては(2021年4月現在),2型糖尿病の方以外にはGLP-1受容体作動薬を使用することができません

GLP-1ダイエットと呼ばれる自費診療が流行しましたが,一部の心ないクリニックで,不適切な使用が相次いで問題になっており,日本医師会や日本糖尿病学会から使用に関する注意喚起が出ております.

 

というわけで,色々な注目を浴びているGLP-1受容体作動薬.
今回は,糖尿病の方ではなく,肥満の方に使用した場合の影響について,新しい研究結果が報告されました.

   

論文の紹介

Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity
成人の過体重・肥満症患者に対する,週1回のセマグルチドの投与https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032183

○背景:

  • 現在,肥満患者を対象に, セマグルチド(オゼンピック®)2.4mg/週の第III相試験 (Semaglutide Treatment Effect in People with Obesity, STEP)が進行中である.
  • STEPは1~5のプログラムに分けられており,
    STEP1は糖尿病のない肥満患者における体重管理,
    STEP2は2型糖尿病の肥満患者における体重管理,
    STEP3は頻回行動療法を併用した肥満患者の体重管理,
    STEP4は持続的な体重管理,
    STEP5は長期の体重管理について評価が行われる.
  • 今回の論文はSTEP1(糖尿病のない肥満患者における体重管理)についての報告.

○方法:

  • アジア,欧州,北米,南米の16カ国 129施設における,無作為化二重盲検プラセボ対照試験.
  • 18歳以上で,BMIが30以上または27以上で併存疾患(高血圧,脂質異常症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,心血管疾患)を有する者が対象.
  • 除外基準は糖尿病,HbA1c 6.5%以上,慢性膵炎,登録前180日以内の急性膵炎,手術による肥満治療の既往,登録前90日以内の抗肥満薬の使用.

文献より引用:

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  • 最初の4週間はセマグルチド週1回0.25mgを投与し,4週間ごとに増量して16週目までに週1回2.4mg維持投与量とした.
  • Primariy endpointは,ベースラインからの68週目までの体重の変化率,5%以上の体重減少.

○結果:

  • 参加者の平均年齢46歳.平均体重105.3kg,平均BMI 37.9 kg/m^2,平均ウエスト周囲長114.7cm.43.7%が前糖尿病で, 75%が少なくとも1つの併存疾患を有していた.
  • 68週目の体重変化率は,プラセボ群で-2.4%,セマグルチド群で-14.9%だった.

文献より引用:

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  • 68週目に5%,10%,15%,20%以上の体重減少を達成した割合は,
    プラセボ群ではそれぞれ31.5%,12.0%,4.9%,1.7%であったのに対し,
    セマグルチド群でそれぞれ86.4%,69.1%,50.5%,32.0%であった.

文献より引用:

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  • 有害事象は,
  1. 悪心,嘔吐,下痢,便秘などの消化器症状(セマグルチド群 74,2%,プラセボ群 47.9%)
  2. 肝胆道障害(セマグルチド群1.3%,プラセボ群0.2%)
  3. 急性膵炎(セマグルチド群3名,プラセボ群0名)
  4. 低血糖 (セマグルチド群 0.6%, プラセボ群 0.8%)
    などが報告された.

○結論:

  • 過体重や肥満の成人に対するセマグルチド2.4mg/週の投与は,有意な体重減少効果を認めることが示された.

   

糖尿病ではない肥満患者に対しても,GLP-1受容体作動薬はかなりの減量効果が見込めそうですね.意外と低血糖の副反応も少なく,安全性が期待されます.ただ,日本に比べて投与量がかなり多い(日本は0.25~1.0mgですが,この試験は2.4mg/週)のはちょっと気になりました.