糖尿病医の糖尿病日記

糖尿病(MODY3)の糖尿病医が糖尿病の記事を書きます.

糖尿病と個別化医療について書き散らす③

前回の記事の続きです.

さて,糖尿病と遺伝との話に戻します.

 

糖尿病は遺伝が強く関係する病気というのは有名ですよね.
現在の糖尿病と遺伝の研究は,大きく分けて「多因子疾患の糖尿病」と「単一遺伝子による糖尿病」の2つに分野に別れています.

「多因子疾患の糖尿病」

2型糖尿病は多因子疾患の代表です.「多因子」とは原因がいろいろあるという意味です.

2型糖尿病は,ひとつあたりは影響が小さいが多種多様の発症遺伝子が積み重なった「2型糖尿病になりやすい人」が,加齢や肥満や喫煙などの「環境要因」が複雑に関連し発症します.

 

また,生活習慣に関係なく発症する糖尿病である1型糖尿病は,コクサッキーウイルスなどの感染症が原因で発症するという説が有力ですが,HLAハプロタイプなどの遺伝的な背景である程度発症のしやすさが変わってくることが知られています.

その点では1型糖尿病も多因子疾患と考えられています.

 

この「多種多様の発症遺伝子」は,2003年の「ヒトゲノム計画」でヒトの全遺伝子の配列が解明された後,次々と開発された次世代シークエンサーによる遺伝子解析技術がすすむようになり,今ではたくさんの数の原因遺伝子が報告されています.

Nature Reviews Genetics誌から引用

例えば2型糖尿病の発症遺伝子は実に200種類が知られておりますし,1型糖尿病の発症に関係する遺伝子もHLAハプロタイプをはじめとして多くの発症遺伝子が報告されています.

 

糖尿病の発症遺伝子のほかにも,ゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法により,GLP1受容体作動薬の感受性に関与するGLP1Rバリアントrs9394574や,糖尿病細小血管障害の発症に関係するSTT3B,PALM2領域付近のバリアントrs12630354, rs140508424 などが報告されています.

 

これを診療に応用するとしたら,たとえば糖尿病の方みんなでまずは遺伝子解析をして,上記のGLP1Rバリアントもつ患者さんではGLP1受容体作動薬がよく効くわけですから,そういった方ではGLP1受容体作動薬を優先して使用されることになったり,

合併症が起きやすい遺伝子バリアントをもつ患者さんでは血糖コントロールをより厳格に設定したり,眼科に受診してもらう頻度を上げたりして早期発見に務めるなどの対策が可能になります.

 

しかしながら,これらの大量の糖尿病関連遺伝子は,未だ個別化医療への応用に関しては実用化に至っていないのが現状です.

さて,この「多因子疾患の糖尿病」に対して,遺伝子解析が非常に個別化医療の実践へ有用であると考えられているのが「単一遺伝子による糖尿病」です.

 

まだまだ続きますよ!