前回の記事のつづきです.
2015年に,オバマ元アメリカ大統領が「Precision Medicine Initiative (個別化医療の発案)」を行い,非常に話題になりました.
米ホワイトハウスHPアーカイブより引用
先程述べたように,こんごの標準的な医療は
「平均的な患者向けにデザインされた医療」,から「遺伝子や生活環境、ライフスタイルの違いを考慮した予防や治療法」へ,
すなわち「標準治療」から「個別化医療」へのシフトを提言し,その実現のための予算案として2.15億ドルを設定しました.
また,将来的に起こるであろう遺伝子解析に伴うプライバシー問題への対応を先駆けて行っています.
なお,余談ではありますが日本ではすこし遅れて2023年5月31日に「ゲノム医療法案」が採決されました.
本日5月31日,「ゲノム医療法案」が本日衆議院本会議にて採決.日本では遅れているゲノム医療の推進や,遺伝差別対策の整備についての法律案起草のながれが進んでいます.
— おだQ🧬💉 (@OdaQ_DM) 2023年5月31日
2023/5/26 - 共同通信 https://t.co/6sEZpJuV8Q
一人ひとりの遺伝子を調べるなんて,ちょっと大げさじゃないかワン?大変なコストがかかるんじゃないのかワン?
いえいえ,実は,遺伝子解析にかかるコストは年々減り続けており,近年では一人あたり1,000ドルを切るようになりました.
日本円で13万円くらいですから,よく行われる検査ですと,造影CT検査やMRI検査4~5回分程度のコストということになります.
そして,ヒトの遺伝子は終生変わることはありませんから(遺伝子の不変性),他の検査とは異なり,基本的には一生に1回の解析ですね.
この解析で適切な治療法がわかったり,のちの合併症の治療のための多額の治療費が防げるとしたら,決して非現実的な価格ではないですよね.
現在は,とくにガンの分野で個別化医療の考えが進んでいます.
たとえば,「オラパリブ(リムパーザ®)」という抗がん剤は,遺伝子解析でBRCA遺伝子の病的バリアント(病気の原因となる遺伝子変化のこと)が明らかになった方のみで使用が可能です.
これはまさしく個別化医療ですね.
しかしながら,遺伝子解析をして,こういった遺伝子バリアントをもっているということがわかると,
「両親のどちらか(あるいは両方)から遺伝したこと」
「血縁者が同じ遺伝子を共有している可能性があること」もわかってしまいます.(遺伝子の共有性)
そうなると,その方は将来的にほぼ確実にガンになることがわかるわけですが,必ずしもいいことばかりではなく,色々な問題が生じ得ることは想像に難くないと思います.(遺伝子の予見性)
遺伝子解析を行うということは,そういった問題もはらんでいます.
脱線してまいりました!まだまだ続きます!