糖尿病医の糖尿病日記

糖尿病(MODY3)の糖尿病医が糖尿病の記事を書きます.

MODY(家族性若年糖尿病)とは?

この記事では筆者自身の病気,MODYについて記載します.

MODY(モディー)はMaturity Onset Diabetes of the Youngの略で,日本語で「家族性若年糖尿病」とといいます.

生活習慣病ではなく,インスリンを作ったり,調整を行う遺伝子などに変化があり糖尿病になる,遺伝病です.
名前の通り,若くして糖尿病を発症します.自分は小学4年生(10歳)の時にMODY3の診断を受けました.

MODYで検索すると,学会や難病センターの情報はいくつかヒットしますが,
どれも難しい!と思いましたので,なるべくわかりやすく説明いたします.

 

糖尿病には色々な「型」があって,発症の原因が違う

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糖尿病は「糖尿病が発症した原因」に注目し,大きく4種類に分類されています.

 

1型糖尿病 
糖尿病全体の5%程度.インスリンが必要.発症のしやすさに遺伝素因(HLA遺伝子)の関連もあると言われている.

2型糖尿病 
いわゆる生活習慣病ともいわれている.糖尿病になりやすい(太りやすい,インスリンが少ない)遺伝的素因を持っている方が,環境因子(加齢,肥満,ストレス,たばこなど)を原因として発症する.環境因子によっては発症しないこともある.

 

妊娠糖尿病 
糖尿病になりやすい素因を持つ方が,妊娠をきっかけに発症する糖尿病.

その他の糖尿病 
単一遺伝子による糖尿病や、インスリンの設計図となるDNAなどの異常で発症する糖尿病.薬(ステロイド剤など)の副作用,ホルモンの異常や,急性すい炎や肝硬変など他臓器の病気が原因で発症する二次性糖尿病が含まれる.

 

 

糖尿病は「遺伝病」である

大それた言い方のようですが,糖尿病は遺伝病といってもよい病気です.

同じ生活をしていても,糖尿病になる人と,ならない人がいるのはなぜでしょうか?
「糖尿病の自分よりも,もっと非健康的な生活をしているあの人は,なぜ糖尿病にならないんだろう...?」

答えは「遺伝子」です.言い換えれば,体質です.


もともと,「遺伝的に糖尿病になりやすい方」が,1型糖尿病であればウイルス感染症などをきっかけに。2型糖尿病であれば、生活週間などの環境因子が原因として発症します.

そのため,糖尿病になりやすい体質でも,環境によっては発症しないことがあります.

食生活の欧米化や車社会は,「遺伝的に2型糖尿病になりやすい方」が2型糖尿病を発症する引き金になりました.日本含め先進国では糖尿病の方は頭打ちの傾向にありますが,いまでも一部の発展途上国では増加傾向です.

  

糖尿病の原因になる,遺伝子の「バリアント」

最近の研究で,ヒトの遺伝子解析が進んでいます.

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おなじ人間でも、一人ひとり,顔つきが違ったり,背が高かったり,低かったり,個性がありますよね.
遺伝子の大まかな部分は一緒ですが、個性があるのは,遺伝子の情報が一人ひとり微妙に違うからです.遺伝子のうち,一人ひとり微妙に違う部分を「バリアント」といいます.バリアントは多様性を生み出します. 
背が高い人や低い人がいるように,糖尿病になりやすい人や、なりにくい人がいます.

1型糖尿病や2 型糖尿病は、複数のバリアントと外的要因が原因で発症します。具体的に言うと,1型糖尿病を発症しやすいバリアントを持つひとがウイルスに感染した時に1型糖尿病を発症しやすかったり、太りやすかったり,インスリンをつくる力が低かったりするバリアント持つ人が,加齢をしたり生活習慣を崩すと2型糖尿病を発症するわけです.これを多因子疾患とよびます。

 

Nature Reviews Genetics誌より引用.糖尿病に関係する遺伝子はめっちゃいっぱいある.

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現在までの研究によると,およそ183種類のバリアントが糖尿病の発症に関係していると言われています.多い!

 

インスリンの分泌に超大事な部分が変化すると,MODYの発症原因に

上記の糖尿病発症遺伝子のなかでも,一つひとつはたいした影響のないものが多いです.いくつか組み合わさって,結果的に糖尿病を発症したり,しなかったりという感じです.

しかし,遺伝子の中には,そこ1つの変化だけで糖尿病が発症する超大事な部分もあります.

 

 インスリンそのもの設計図や,インスリンの出具合を調整する遺伝子、 血糖値のセンサー部分などの大事な部分の遺伝子変化があると,それ一つが原因で糖尿病が発症します.これが単一遺伝子による糖尿病です.

MODYは生活習慣などの環境因子に関わらず発症します.

 

MODYと2型糖尿病の違い

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たとえば単一遺伝子糖尿病で一番多いといわれるMODY1, MODY3は,インスリンを合成する調整機能(転写因子といいます)をもつ「HNF-4A」,「HNF-1A」タンパクの設計図が変化し発症します.

ほかにも,MODY2は血糖値が上がったことを感知するセンサー部分「グルコキナーゼ」遺伝子の変化で発症します.

  原因遺伝子 頻度
MODY1 HNF-4α 10%
MODY2 GCK 30%
MODY3 HNF-1α 50%
MODY5 HNF-1β 10%
MODY10 INS 1% ?
MODY13 ABCC8 1% ?

MODYは,原因遺伝子が特定された順に数字が割り振られているので,必ずしも番号と頻度は一致していません.現在の報告では,MODY3が最多,ついでMODY2, MODY1, 5と続きます.上記以外のMODYは世界で数家系と稀な存在です.

 

残念ながら,MODYは他の糖尿病に比較して,医療者にすら認知されていません.
遺伝子検査を行わなければ,2型糖尿病として診断・治療されることがほとんどで,「こんなに若くして2型糖尿病になるのは,生活習慣が悪い.怠慢だ」などと言われることがあります.

 

糖尿病であることで受ける社会的な差別は「スティグマ」と呼ばれ,問題になっています.

 

   

1型糖尿病と間違えられ治療されている事もある

MODYを発症するのは,だいたい25歳未満と言われています.

学校の尿検査で尿糖陽性となり診断となるケースが多いのですが,「子供の糖尿病」「自前のインスリン分泌が低下している」「太っていない」ため,1型糖尿病とよく似た特徴を持っています.

そのため,1型糖尿病と診断され,長らくインスリン治療を行っているMODYの方も多いという報告があります.

子供が発症する糖尿病で,インスリン分泌低下を伴うため,1型糖尿病と誤診され,インスリンを使っていることが多いです.この場合,遺伝子検査で単一遺伝子糖尿病と診断できると,適切な治療薬に変えられる可能性があります.

 

必ずしもインスリンをやめられる訳ではないですが,遺伝子検査を行うメリットのひとつです.

ちなみに,「病気の原因遺伝子を特定して,適切な治療を行い結果的に良い医療を提供すること」を,「個別化医療 (Precision medicine) 」とよび,最近のトピックスです.

 

 

また,MODYのうち,MODY2では合併症がほとんど発症しない(非糖尿病患者と同等)という報告があり,今後の病状の予測も可能です.

 

MODYの治療は?治る病気なのか?

残念ながら,MODYは現代の医療水準では治りません.
他の糖尿病と同じです.

しかし,血糖値をコントロールすることで,合併症を防ぎ,糖尿病でない人と何一つ変わらない生活を行うことができます.この辺は1型糖尿病の方と同じ感じです.

最近の研究では,1型糖尿病の方の死亡率は一般人と同等になっています.
筆者自身も二十数年間MODYと付き合っていますが,幸い合併症は全く発症していません.

ただし,MODYでも他の糖尿病と同じように,血糖コントロールのため生活習慣をよくすることが大切です.発症原因に生活習慣が関係ないだけで,治療のため生活習慣の改善は必要です.

 

治療に関しては,MODYは少量のSU薬(グリミクロン,グリメピリド等)が非常によく効きます.最近では,GLP-1受容体作動薬のほうが,低血糖の頻度がより低く管理できるとの報告もありました.

内服薬でコントロールがうまく行かなかったり,発症から年月が経ち自前のインスリンの出が悪くなった場合は結局インスリンの注射が必要になることもあります.

 

   

MODYの遺伝子検査は保険でできるの?

残念ながら 2024年1月現在は糖尿病遺伝子に関する検査は保険適用外です。

例えば東京女子医科大学などでは遺伝子検査自体は研究費で施行しておりますが、遺伝カウンセリングやDNA保管料など合わせて自己負担額としては7-8万円程度かかります。ここらへんは大学病院が治験などで負担していることもあるので、施設によりけりといったところです。

MODY1-6 の病態調査と識別的診断基準の策定研究班を参照すると,岐阜大学附属病院,大阪大学大学院内分泌代謝内科学の記載もあり,こちらでも相談は可能かもしれません.

 

(追記)

患者さんあるいはそのご家族,医療従事者問わずMODY遺伝子解析に関係する情報提供や相談先として,「一般社団法人モノジェニックの会」の相談フォームより問い合わせを承っております

 

 

 

 

記事に関して,わかりにくいなどご意見がありましたら,遠慮なくご指摘下さい.

 

 

参考文献:

1) T Urakami. Diabetes Metab J. 2015 Dec;39(6):468-477.

2) Uptodate. Classification of diabetes mellitus and genetic diabetic syndromes.

3) Andrew T Hattersleyら. Diabetologia. 2017 May;60(5):769-777

4) 岩崎直子. 東女医大誌. 2011 Jan;81 :E70-77.

5) Signe H. Østoftら.Diabetes Care 2014 Jul; 37(7): 1797-1805.

6) Jason Flannickら.Nature Reviews Genetics volume 17, 535–549(2016)

7) Anna M Steele ら.JAMA 2014 Jan 15;311(3):279-86. 

8) KR Owen. Current Opinion in Genetics & Development 2018, 50:103-110

 

記載:2020年10月2日

更新:2020年12月30日

   2021年7月6日

   2022年2月22日

   2022年8月17日

   2024年1月18日