1型糖尿病は,「ある日突然発症する病気」ではなく,『1型糖尿病に関係する抗体が陽性となった人が、だんだん発症していく病気』という認識に変わり始めています.
先日2023年10月に行われたヨーロッパ糖尿病協会の学術総会 (EASD2023)にて興味深いシンポジウムが行われていました.その研究内容に関する記事が公開されていましたので要約を記載します.
1型糖尿病の普遍的なスクリーニングに関する最新データが、今年のヨーロッパ糖尿病研究協会(EASD)の年次大会(2023年10月2日-6日、ドイツのハンブルクで開催)で議論されました。このセッションは、アメリカ、インディアナ州のインディアナ大学医学校、小児科学のアソシエイトプロフェッサーであるエミリー・K・シムズ博士によって行われます。
さまざまなグループによる研究により、多くの膵島関連自己抗体(GAD抗体,IA-2抗体,インスリン抗体など)を持つ人は、一生のうちに1型糖尿病を発症するほぼ100%のリスクを持っていることが判明しました1).
それまで全く糖尿病ではなかった方が,生活習慣に関係なく,ある日突然発症する病気,と一般的には言われている1型糖尿病.
今回の国際学会で話題に出たのが,「膵島関連自己抗体は糖尿病を発症したときに陽性になるのではなく,糖尿病を発症するある程度前から膵島関連自己抗体が出ているのではないか?」ということです.
1型糖尿病にはいくつかの種類がありますが,その中で最多の「急性発症1型糖尿病」は、インスリンを分泌する すい臓のベータ細胞が何らかの自己免疫機序(本来,外敵から身を守るシステムが,間違って攻撃して破壊してしまう)によって生活習慣などの環境因子に関係なく発症する糖尿病です.
(以下,「1型糖尿病」はすべて「急性発症1型糖尿病」のことを指します)
実のところ,1型糖尿病の発症に至る細かな機序は未だ分かっていません.とりあえず1型糖尿病を発症された方の多くで陽性となる抗体(GAD抗体,IA-2抗体など)が膵島関連自己抗体と呼ばれていますが,それが実際どういった役割をしているかは明らかになっていません.
1型糖尿病を発症すると,体内に十分なインスリンが行き渡らないため,細胞にエネルギーが行き渡りません.
かわりに脂肪からエネルギーを作り出し,体内にケトンという物質が蓄積します.その結果,糖尿病ケトアシドーシス(DKA)という状態になり,多くが入院による治療を必要とします.また,DKAが原因で亡くなる方も少なくありません.
そこで,1型糖尿病を発症する前に,なんとか予兆をつかんでDKAの発症を抑えることができないか.という研究がいくつも行われました.すると,意外な事実が明らかになりました.
多くの研究調査で,①~2歳と②5〜7歳,の2回で膵島関連自己抗体の測定を行うことが、15歳までに発症する1型糖尿病のほとんどの症例を予測できることを示しています2), 3)。
「私たちの1型糖尿病に関する知識は、これまで急に発症する疾患と考えていたものから、多数の膵島関連自己抗体が出現した後に,徐々に発症するものであるという内容に変わりました。
疾患初期の,無症状段階の人(血糖推移がまだ正常範囲な人)を特定することで,いつインスリンが必要になるかをより正確に予測し、発症時に頻繁に発生する命に関わるDKA(糖尿病ケトアシドーシス)を予防できます」と述べています。
なんと,1型糖尿病の診断に必要な血液検査項目の「GAD抗体」「IA-2抗体」などの膵島関連自己抗体が,1型糖尿病を発症するある程度前からすでに陽性になっており,複数の膵島関連自己抗体が陽性となった子どもでは,高校生くらいの年齢でほぼ全員が1型糖尿病を発症していたことがわかりました.
これまでは糖尿病ケトアシドーシスを発症するまで,それといった特徴的な症状が見られないため,まさにケトアシドーシスを起こした時点で「突然1型糖尿病を発症した」ように見られていたけれども,実はそのずっと前から進行していたというわけです.
そして記事は,今後,1型糖尿病発症リスクを推定するための費用対効果やアプローチ方法について,今後5年をメドに結論を出していきたいという内容で締められています.
「スクリーニングの費用、拡大するための最適な方法、そして最近米国でステージ2疾患の基準を満たす個人のステージ3 T1Dの遅延に対してFDA承認を受けた抗CD3モノクローナル抗体など、疾患修正療法へのアクセスとの連携方法など、これらすべての詳細はまだ解明されているべきです。
「私は、次の5年間にわたり、スクリーニングおよびモニタリングガイドラインのますます広範な社会的な支持が見られるようになり、これが実珸するにつれて、国々は子供が予防接種のために通院する際など、若い子供のルーチンケアにスクリーニングを組み込み始めるでしょう。
大人のスクリーニング、すなわちT1Dを発症する可能性のある成人のスクリーニングは、研究がまだ不十分です。最適なアプローチが明確にされていないにもかかわらず、この人口も早期段階の疾患の同定と教育、モニタリング、療法へのアクセスの利点を享受するでしょう。」
なお,ここに記載のある「抗CD3モノクローナル抗体」はテプリズマブという薬剤で,まさに今回話題となった「1型糖尿病をまだ発症していない,膵島関連自己抗体が陽性の人」の発症を遅らせる新薬で,少し前に話題となっていました.下記記事もご参照ください.
1型糖尿病の発症を遅らせる薬を開発 米FDAが承認 1型糖尿病そのものの新たな治療法として期待 | ニュース | 糖尿病ネットワーク
病気を予防したり治療するためには,まず「何でその病気になるのか?」ということが明らかにならないといけません.今回の治験が1型糖尿病の治療に関する新たなステップになるとよいですね.
引用元:Is universal screening for type 1 diabetes ar | EurekAlert!
参考文献:
1) JAMA. 2013 Jun 19;309(23):2473-9