新しいインクレチン関連薬,チルゼパチド(GIP受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬の配合剤)の治験が進んでいます.
インクレチンは,からだに食べモノが入ってきたことを知らせるホルモン
人が食事をすると,食べたものが胃や腸の中を通ります.
その刺激を胃や腸が感知し,伝達物質を放出し,「食べ物が通ったからもうすぐ血糖が上がりそう」なことを全身に知らせます.
この伝達物質がインクレチンです.
インクレチンがすい臓に作用すると,インスリンが分泌され血糖値を下げます.同様に,脳に作用すると,食欲が抑えられますので,体重減少効果があります.
現在わかっているインクレチンは,GLP-1(Glucagon-Like peptide-1), GIP(Glucose dependent insulinotropic polypeptide)の2種類です.
現在発売されているインクレチン関連薬として,
- DPP-4阻害薬
(エクア®,グラクティブ®,ジャヌビア®,テネリア®,トラゼンタ®,ネシーナ®など) - GLP-1受容体作動薬
(オゼンピック®,トルリシティ®,ビクトーザ®,リキスミア®など)
があります.
うち,GLP-1受容体作動薬は,長らく注射剤が使用されていましたが,内服薬が近々発売予定で注目されています.(過去記事をご参照ください)
そんなわけで,GLP-1受容体作動薬は,各製薬会社から多種多様な製剤が発売され,すでにレッドオーシャン化している分野なのです.
GIPは「肥満ホルモン」と思われていた
GLP-1受容体作動薬に関しては,すでに糖尿病・肥満治療の主流な選択肢となりつつあります.
そこで,もうひとつのインクレチン,GIPが注目されつつあります.
GIPは,実際,どのような効果を起こすのか,あまりよくわかっていませんでした.インスリンの分泌を増加させる効果が確認されていましたが,むしろ,脂肪細胞を大きくさせ,肥満の原因になるホルモンなのではという報告があるくらいでした.
GIP受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬との併用で,効果増強の可能性
そんなGIPがついに日の目を浴びる可能性があります.2020年12月17日,イーライリリー株式会社より,GIP受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬の配合剤チルゼパチドの最終フェーズ治験(第III相試験)の結果が発表されました.
- 3ヵ月以内に経口血糖降下薬を使用していない
- HbA1c 7%~9.5%
- BMI 23以上
の2型糖尿病患者が治験の対象となりました.
40週間の投与を行った結果がこちらです↓
血糖改善作用と体重減少効果がものすごいですね.今回の第III相試験は、どちかというと有効性よりも安全性をみる試験なのですが、この結果は驚きでした。
抱き合わせのGLP-1としては,おそらくトルリシティ®と思われます.
ただし,吐き気の副作用が多いのが気になりました(5mgが11.6%,10mgが13.2%,15mgが18.2%と高値)
通常,第三相試験で安全性が確認された場合は,国の承認を経て発売に至ります.今後の発表が気になるところです.
今はまだ製薬会社のプレスリリースだけですが,詳しい治験結果が第81回アメリカ糖尿病学会学術総会でお披露目されるとのことです.楽しみですね~.
ほか,チルゼパチドとグラルギンを比較検討した試験も進行中です.
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