糖尿病の心理的負担の強さは死亡リスクに影響する

この論文を一言でまとめると:

男性の2型糖尿病患者においては,心理的負担(PAIDスコア)が高いと全死亡リスクが上昇する.

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糖尿病は基本的に一生の治療が必要になる病気です.
ここ数十年で,糖尿病治療薬の選択肢は大きく様変わりしましたが,カロリー制限,経済的負担,社会からの差別・偏見(スティグマ)から来る心理的負担も糖尿病治療のうえで大きな問題となっています.

「糖尿病の方のうち4割程度が,実際に治療による心の負担を感じている」という報告もあるほどです.(Diabetic Medicine. 2013 Jul;30(7):767-77. )

 この論文は,精神的負担と,実際の予後との関係を検討したものになります.

 

Association between diabetes distress and all-cause mortality
in Japanese individuals with type 2 diabetes: a prospective cohort study(Diabetes Distress and Care Registry in Tenri [DDCRT 18])

日本人2型糖尿病における,糖尿病による苦痛と全死亡との関係.

PMID: 29947921 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

○背景:

  • この20年で糖尿病治療は様変わりし,今後も発展していくと思われる.しかし,糖尿病による健康障害・死亡を防ぐためには,日常的な自己管理が重要なのは変わらない.
  • 終わりのない自己管理の必要性は,ときに心理的な負担を引き起こす.
  • 我々は,「大きな心理的負担は,血糖コントロールを結果的に悪くしたり,合併症を引き起こすのでは?」という仮設を立て,実際に検討を行った.

○方法:

  • 2009年10月から2010年8月の期間,糖尿病の診断で天理よろづ相談所病院に受診した患者3,305名を対象にした.
  • PAIDスコア(Problem Areas In Diabetesを用いて糖尿病の心理的負担をチェックした.
  • PAIDスコア40点以上を心理的苦痛ありと評価した.

(参考 PAIDスコア質問表)

以下の質問に,1(全く問題でない)~5(たいへん悩んでいる)の5段階で回答して,合計点をPAIDスコアとする.

  1. 糖尿病の治療法について,はっきりした具体的な目標がない.
  2. 自分の糖尿病の治療法がいやになる.
  3. 糖尿病を持ちながら生きていくことを考えるとこわくなる.
  4. 糖尿病の治療に関連して,周りの人達から不愉快な思いをさせられる.
  5. 食べ物や食事の楽しみを奪われたと感じる.
  6. 糖尿病を持ちながら生きていくことを考えると憂鬱になる.
  7. 自分の気持ちや感情が糖尿病と関係しているかどうかが分からない.
  8. 糖尿病に打ちのめされたように感じる.
  9. 低血糖が心配である.
  10. 糖尿病を持ちながら生きていくことを考えると腹が立つ.
  11. 常に食べ物や食事が気になる.
  12. 将来のことや重い合併症になるかもしれないことが心配である.
  13. 糖尿病を管理していくことから脱線したとき,罪悪感・不安を感じる.
  14. 自分が糖尿病であることを受け入れていない.
  15. 糖尿病を診てもらっている医者に対して不満がある.
  16. 糖尿病のために,毎日多くの精神的エネルギーや肉体的エネルギーが奪われていると思う.
  17. 糖尿病のせいでひとりぼっちだと思う.
  18. 自分が糖尿病管理のために努力している事に対して,友人や家族は協力的ではないと感じる.
  19. 自分が今持っている糖尿病の合併症に対処していくことが難しいと感じる.
  20. 糖尿病を管理するために努力しつづけて,燃え尽きてしまった.

○結果:

  • 最大7年(2187名)のフォローアップを行い,フォローアップ期間中の死亡は251名であった.
  • 交絡因子調整後の,PAIDスコア40以上の患者および39以下の患者の全死亡HRは1.56(95%CI 1.17-2.08) であり,有意なリスク上昇を認めた.
  • サブ解析においては,男性では有意なリスク上昇を認めるも,女性では有意なリスク上昇は認めなかった.

○結論:

  • 男性2型糖尿病患者における心理的苦痛は全死亡リスクを上昇させる.

 

なにごともプラス思考がよいという事でしょうか.男性は女性に比べて心理的に弱い,ともいえそうです.あまり気負いをせず,時にはちょっとサボりながら,糖尿病とじょうずに付き合っていく必要がありますね.
なお,これは2型糖尿病の方を対象とした研究なので,1型糖尿病の方はどうかも気になるところです.

記載:2020年9月17日