自分が勤務している病院で,軽~中等度症の新型コロナウイルス(以下,COVID-19)の方を入院診療しています.直接主治医にはなりませんが,糖尿病の方を併診診療することが多く,雑感をまとめました.
以下の文献を参考に作成されています.
※COVID-19診療そのものに関しては,専門医や厚労省,WHO声明などの意見をご参照願います.この記事は糖尿病を診療している医師の感想になります.
血糖は180mg/dL未満を目標に管理するべき
上記論文によれば,血糖をなるべく180mg/dL未満にコントロールすることで,COVID-19感染者の死亡率を下げる可能性があるとの結論でした.
これはCOVID-19に限らず,一般的な感染症においても同様の目標値です.
一般的に知られていることではありますが,
適切な治療を行っていても,血糖値が高いと感染症が治りにくくなります.
感染症の治療では,通常,糖尿病の内服薬は中止のうえ,インスリン注射によるコントロールが推奨されます.
(コントロール状況によっては,内服薬で十分な場合もあります.)
1日4回程度インスリンを注射する「強化インスリン療法」がいちばんコントロールがしやすく,標準的な治療方法になります.
血糖測定やインスリン注射の回数を多くすると,それだけ医療スタッフの接触が増える
ここで,現時点で筆者が一番に悩んでいる問題です.
COVID-19は,飛沫感染(唾液や痰などから感染する)するのではと言われています.
そのため,「無駄な接触を避けること」が重要です.
そのため,院内感染を避けたり,使い捨ての防護着を無駄にしないために
可能であればマイク越しに会話したり,点滴の交換時間を全てそろえたり,
酸素・血圧などは遠隔モニター機能を使用したり,医療スタッフと患者さんは最小限の接触になるようにしています.
しかし,血糖が高い場合は難しくなります.
血糖測定やインスリンを投与に関しては,現時点の医療技術では,患者との接触なしに行うことはできません.
患者さん自身に血糖測定してもらい,インスリンを打ってもらうことが一番良いですが,それが出来るくらい元気な方は,療養所に入ることが多く,そもそも入院されません.
ましてや,血糖測定やインスリン注射は,知識のある医療スタッフが30分-1時間程度かけてマンツーマンで指導して,やっと安全にできるようになる行為です.
昨日まで血糖測定もインスリン注射もしていなかった方が,「ハイお願いします」と物品だけ渡されても困りますよね.
一般的に,血糖値を良くすることで,それだけ感染症の治癒も早くなるので,医者としては,なるべく測定の回数を増やしていきたいところです.
しかし,上記の問題から,「本当に絶対どうしても必要な場合」以外は,測定回数を減らしたり,注射回数を減らしたりせざるを得ない場合が多いです.
「デキサメタゾン」による血糖上昇
さらに糖尿病診療を難しくする要因の一つです.
COVID-19感染症の治療には色々な選択肢が提唱されていますが,「デキサメタゾン」という注射薬が有効という報告があり,使用されることが増えてきました.
「デキサメタゾン」はステロイドホルモンの一種ですが,血中半減期が長く,
副作用として強烈な血糖値上昇を引き起こします.
普段のHbA1cがいくら良好でも,注射後に大幅な血糖上昇をきたす方が多いです.普段から血糖が高い方はなおさら上昇します.
しかし,それでも治療には有効な訳ですから,投与を控えるわけにはいきません.
むしろ「血糖が高いから,デキサメタゾンの投与は見送ろう」と主治医に思わせたり,患者さんに「デキサメタゾンの投与はやめてほしい」など言わせたら,自分としては完全に負けです.
難しい問題です.
そもそも感染を予防することが大事,
万が一感染した時のことを考えて,普段から血糖コントロールを
結局のところは,糖尿病の方は感染予防することが重要です.
手洗い,うがいを日常的に行うことはもちろんですが,
どんなに注意しても感染することもありますから,普段から血糖コントロールを良くするよう意識するに越したことはありません.
感染を恐れて通院をおろそかにして,血糖が悪くなり重症に・・・というのは避けたいです.
まだまだ分からない事だらけの,糖尿病とCOVID-19との関係.ご意見などありましたら,ツイッターのDMなどで是非,情報共有お願いいたします.
記載:2020年9月9日