エッセイ「噛むこと」

糖尿病とわかったあと、最初に言われるのは「体重を落としましょう」ということだった。

――もちろん、それが大事なのは理解している。

でも、やることの多さにくらべて、「どうやったら無理なく続けられるか」の部分は、あまり語られないように感じていた。

食事もそう。栄養素の話やカロリー計算の話はよく出てくるけど、「食べ方」について何か言われたことは、正直なかった。

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けれど、あるとき、食後の血糖値がなかなか安定しないときに、ふと思って、ゆっくり噛んで食べるようにしてみた。

すると、明らかに満腹感が違った。

同じ量を食べても、早食いのときよりも満足感が長続きする。

これはたぶん、噛むことで咀嚼(そしゃく)中に脳の満腹中枢が刺激されるからだとあとから知った。また、急激に血糖が上がるのも、少しマイルドになる印象があった。

咀嚼によって消化酵素もちゃんと出るようになるし、消化吸収がゆっくり進むぶん、血糖の上昇もなだらかになる。

これって、薬以外で血糖の波を穏やかにするための、シンプルだけど効果のある方法なんじゃないかと実感した。

しかも、噛むことに集中すると、自然と「味わう」ようになる。

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いままで、糖質がどうこうとか、カロリーが何キロカロリーだとか、そんな数字ばかりに目を奪われていたけれど、目の前にある料理そのものの味を、ちゃんと感じる余裕ができた。

食事指導の現場では、「減らすこと」ばかりが重視されがちだけど、そもそも人は食べることで生きているし、楽しみでもある。噛むという行為は、制限のなかでも「食べる喜び」を取り戻すための、ごく自然な手段だと思う。

体重の数字やHbA1cの値ももちろん大事だし、それだけじゃない。「噛むこと」は、食べるという行為そのものの質を変えてくれる。

それを、もっと早く誰かに教えてほしかった。

 

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「よく噛んで食べたくなるようなエッセイを作って」ってChatGPTにお願いしたワン。

すご。普通に読んじゃったよ。

 

さて、ここからはいつもの記事になります。

 

食事療法について思うこと

糖尿病の「食事療法」というと、どうしてもカロリーを減らせ、間食をやめろ、甘いものをやめろ、糖質を減らせ。◯◯を食べろ。という内容が強調されがちです。

もちろんそれらは医学的にも重要なんですが、何事も減らすことが大事というわけでは無いのはすぐわかることですよね。

その中でも、「よく噛む」という行為は、なかなか非常に基本的で、しかも医学的にも明らかなメリットのある行為です。

まず、よく噛むことで満腹中枢が刺激され、自然と食事量が減るということがわかっています。これは咀嚼の行為そのものが、脳の視床・大脳皮質を通して、食欲の抑制を起こすという脳の仕組みがあります。

また、よく噛むことで血糖の上昇がゆるやかになることも複数の研究で示されています。同じ食事内容でも30回以上噛んだグループではGLP-1の分泌が促進されるなどの効果があります。これは咀嚼によって消化吸収の速度が調整されることが背景にあります。

さらに、よく噛むことは、食事の満足感そのものを高めてくれる効果もあり、これは数字では表せないことですよね。食事の充実感が高まることは、すなわち過食傾向が抑えられることも報告されています。

 

診療の現場では、「なにを食べたか、どれだけ食べたか」という量の話になりがちですが、どう食べるかという質の部分にももっと目を向ける必要があるかなと思います。「噛む」という行為は、食事を「制限する」ものから、味わい、楽しむものへと取り戻すきっかけになるかもしれません。

 

今回の参考文献はこちら。

1) Jpn J Rehabil Med 2008 ; 45 : 645.650 

2) Endocr J. 2013;60(3):311-9.