あらたな糖尿病として提唱されている「5型糖尿病」をご存知ですか?
実は日本人にもけっこう居るかも知れないワンね。
栄養失調による糖尿病、MRDM
糖尿病って、一般的には1型、2型、妊娠糖尿病、その他(MODYとかです)の4種類に分けられる、というのが定番の理解かと思います。
でも最近になって、海外の研究者や医療者の間でちょっと話題になっているのが『Type 5 diabetes(5型糖尿病)』という、あまり聞き慣れない言葉なんです。なにそれ、って思いますよね。
これ、2型糖尿病のように見えるけど、栄養失調が原因で発症して、実はちょっと違う、という人たちのことを指す概念なんです。実はこれ、昔にもあったけど一度消えた概念なんです。
それが『MRDM(Malnutrition-related diabetes mellitus, 栄養失調関連糖尿病)』。
その名の通り、発展途上国などで栄養不良の子どもたちが成長後に糖尿病を発症するというパターンで、栄養失調によりインスリンの分泌量が低下しており糖尿病になると考えられていました。
当時はIDDM(インスリン依存性糖尿病、今の1型糖尿病), NIDDM (インスリン非依存性糖尿病、今の2型糖尿病)や妊娠糖尿病にならび、このMRDM、その他、しか認知されていなかったのですが、1980〜90年代くらいまでは、WHOの分類にもちゃんと載っていました。
でもこのMRDM、明確な診断基準を作るのが難しかったり、時代の流れもあって、その後のWHO分類改訂で「なかったこと」になってしまいました。
現代の「やせすぎ問題」との接点
ここでちょっと話を変えますが、最近「若い人のやせすぎ」が問題になっているのをご存知でしょうか。
最近の順天堂大学の調査によれば、やせ型の人のうち13.3%が耐糖能異常(血糖値が高め)だったという結果が出ています。これは普通体重の人の約7倍。なかなか見逃せない数字ですよね。
どうしてそうなるかというと、筋肉が少ないことでインスリンが効きにくくなったり、脂肪肝や脂肪筋(筋肉の中に脂肪がつく状態)になっているから。つまり、見た目はやせてるけど、中身はインスリンが効きづらい状態になってるんです。
『5型糖尿病』は、糖尿病解明の新たなヒントかも
こうして見ると、MRDMという「過去にあった病型」と、現代の「やせすぎ+代謝異常」は、発症の背景こそ違えど、実は「社会や環境の変化が引き起こす糖尿病」という点ではよく似てるんですよね。
これは、2型糖尿病のようでいてそうじゃない。肥満もあまりない。でもインスリンが効きにくい。そんな人たちの存在に気づいて、治療のアプローチを見直すための「新しい視点」なのかもしれません。
糖尿病の診断、「このひとは1型糖尿病ではないから2型糖尿病だね。」という感じで結構適当ですが、MODYなどの単一遺伝子よる糖尿病や、今回の『5型糖尿病』のような病態が明らかになる中で、「この人はなぜ糖尿病になったのか」「何がこの人の代謝を悪くしているのか」をていねいに見ていくことが、いま求められていると思います。
だからこそ、『5型糖尿病』という言葉が登場した背景には、私たちが「見落としてきた人たち」がいるのではないかと、改めて考えさせられます。
今回参考にした文献はこちら:
1) Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews, Volume 19, Issue 5, 2025, 103250, ISSN 1871-4021 Malnutrition-related diabetes mellitus: Rushing toward “type 5” amid unresolved questions and limited evidence - ScienceDirect
2) Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106(5):e2053-e2062.
