糖尿病の診療をしていると、ときどき、あるいは何度も聞かれることがあります。
「糖尿病って……治りますか?」
筆者はこの質問に対する最適解がまだわかりません。
この問いへ何と答えるか。実は奥深い問題です。
というのは、ただ糖尿病はなおるものなのか、医学的な知識を教えてほしいという質問ではなく、不安や希望や、これからの暮らしへの戸惑いが込められていることが多いと感じます。だからこそ、どう応えるかはとても大切になります。
糖尿病は、いまの医学では「風邪のようにすっかり治る」という種類の病気ではありません。とくに1型糖尿病や、もともとインスリン分泌が弱いタイプの2型糖尿病、薬の副作用で起こる糖尿病、そして遺伝的な背景をもつタイプの糖尿病では、治療を続けていくことが前提になります。
このようなこともあり、医療者はつい「治らない病気です」と口にしてしまいがちです。でも、そう言われた人の心の扉が、スッと閉じてしまうのを感じることもあるのです。
でも、糖尿病は「治らない=もうどうしようもない病気」では決してありません。
いまは薬や医療機器も大きく進歩していて、血糖のマネジメントはずっとしやすくなりました。合併症を防いで元気に過ごしている方がたくさんいます。
実際、UKPDSやDCCT/EDICなどの大規模研究でも、血糖や血圧、脂質をしっかり整えていくことで、健康に長く生きられることが証明されています。
さらに最近では、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といった新しいタイプの薬が登場し、肥満が原因で発症した2型糖尿病の方は、生活習慣の見直しと組み合わせることで、薬を使わずに血糖が安定する「寛解(かんかい)」という状態になる人も増えてきました。
たとえば、DiRECTという研究では、肥満が原因で発症した2型糖尿病の方は、体重を10kg以上減らすことで、寛解の状態に至る人が多いことが報告されています。
こうして見ていくと、「糖尿病が治りますか?」という問いは、治る・治らないという医学的な二択だけでは答えられないと感じます。おそらく今後も、新たな治療薬が出現し、肥満が原因で発症した2型糖尿病の方以外にも有効な治療法が出てくることでしょう。
多くの場合、「糖尿病は治りますか?」の質問の奥には「これからの人生をどう生きていけるのか」という気持ちが込められています。
それぞれの人が、どんなふうに人生を歩みたいのか。その歩みに、医療がどう寄り添えるかを考えること。それが本当に大切だと思っています。