今回はマージョリーくんの紹介だよ。
インスリンは自分のおかげで発見されたんだワン。えっへん!
1921年、カナダの外科医師フレデリック・バンティング博士は、糖尿病に苦しむ人々を救うための研究を開始しました。今では考えられませんが、当時、糖尿病は治療法のない「死の宣告」とされ、唯一の手段は極端なカロリー制限だけ。それでも、ほとんどの人は数年で命を落としていました。
バンティング博士、ベストと実験に用いられたビーグル犬
Environmental History. 23 (2018):368-382
ちなみにこの写真に写っているイヌは違う犬だワン。
そんな中、彼の発想の原点となったのが「ランゲルハンス島」という膵臓の一部が血糖を調整しているかもしれないという仮説でした。
バンティング博士はもともと外科の医師でした。膵臓に含まれる消化酵素の影響を除外することで、この「血糖を下げる物質=インスリン」を取り出せるのでは、と考えたのです。
研究チームの挑戦と一匹の犬
マージョリーの写真
Environmental History. 23 (2018):368-382
トロント大学の研究室で実験を始めたバンティング博士と医学部生のチャールズ・ベスト。彼らは、すい臓を摘出し、糖尿病状態にした犬にインスリンの抽出物を投与することで、血糖値が下がることを確認しました。
でも、インスリンの抽出物がどこまで効果あるのか、ちゃんと証明できるのかな?
そこで彼らは、膵臓を摘出され、数日しか生きられないとされていたビーグル犬「マージョリー」に抽出したインスリンを注射しました。
そしたら驚きの結果が出たワン。なんと、70日間も生き延びたんだワン!
この出来事は、インスリンが確かに糖尿病をもつ人の命を救うという、医学史上初の証明となりました。
インスリンの実用化と未来へ
1922年には、14歳の少年レナード・トンプソンに初めてインスリンが投与され、症状が劇的に改善。技術の改良とともに、インスリンは商業化され、世界中の糖尿病をもつ人々の希望となっていきました。
世界で初めてインスリン治療を受けた
レオナルド・トンプソン
The Discovery of Insulin. ISBN 9780226075631.
翌年、バンティング博士とマクラウド教授はノーベル医学賞を受賞。しかし、助手ベストや化学者コリップの功績も忘れられるべきではなく、彼らにも賞金が分配されました。
当時使用されていたインスリン
(Nobel prize museum, 2022-9-18筆者撮影)
そして現在へ
マージョリーの実験から100年以上が経った今、インスリンの遺伝子配列が解明され、遺伝子組換え技術による超速効型や週1回の持効型インスリンの開発など、さらに進化を遂げています。
テクノロジーの進化に伴い、インスリンポンプや持続血糖測定器(CGM)といったテクノロジーも加わり、血糖管理はかつてないほど柔軟で正確になりました。
インスリンの発見は、糖尿病という病気に立ち向かうための「希望の注射」です。その裏側には、研究者たちの努力と、マージョリーのような存在がありました。
いま糖尿病とともに生きる私がここにいるのも、マージョリーのおかげかもしれないね。
ほんとにそうだワン。もっと感謝しろだワン!
(これがなければもっと感謝したのにな・・・)
筆者追記:インスリン発見の詳しいお話は「The discovery of insulin,(和訳:インスリン物語)という書籍に記載がありますので、興味がある方は是非お読みくださいね。個人的には糖尿病を診療する医師は必読と思います。