糖尿病医の糖尿病日記

糖尿病(MODY3)の糖尿病医が糖尿病の記事を書きます.

MODYの遺伝子解析、実際どうやってる?

遺伝学的検査はどのように行われるかご存じですか?

知らないし、遺伝子とかゲノムってきくとなんだか怖いワン。

たしかに、遺伝子って聞くと身構えちゃうよね。でも、検査の内容をあまり知らないから怖いという点も大きいと思うんだ。どういう方法で解析を行っているのか、知っていれば、怖い検査じゃないことは分かると思うよ。

なるほどだワン。確かに、がん治療や出生前診断にも遺伝学的検査が行われたり、市で補助金が出るとかニュースになっていた気がするワンけど、肝心の検査内容についてはよく知らないワン。

もともと遺伝子解析は実験室で行われることが多かったんだけど、さいきんになって医療の現場でも応用されることが多くなってきたよ。遺伝情報を治療に応用することを、「精密医療」とかいうんだ。

すごいワン。最先端だワン。

でも、遺伝学的検査には、確かにメリットもデメリットもあるということは知っていなければいけないよ。

遺伝学的検査とは

私たちのからだは60兆の細胞でできています。その細胞の「核」に、細胞の設計図や、どんな働きをするかの「遺伝子」が収納されています、

人間の99%以上の遺伝子は同じと言われていますが、残りの1%未満の微妙な違いで、一人ひとり顔つきや肌・目・髪の色が違ったり、背が高かったり、背が低かったり個性が生まれます。

このように、世代を経て微妙に遺伝子の変化が起きるようになっていますが、これは生物種が絶滅を避けるためにできたシステムで、遺伝的多様性とよばれます。

 

要するに、いろいろな人がいたほうが、種の繁栄につながるし、絶滅しにくいってことですね。

 

そして、遺伝子によっては、病気のなりやすさに関係しているものもあります。たとえばガンを抑える遺伝子に変化が起きたらガンになりやすくなるし、血糖値を調整する遺伝子に変化が起きたら糖尿病になります。このように病気の原因となる遺伝子変化があるか調べるのが遺伝学的検査です。

最近では、出生前診断やがん・神経病、心臓病など治療方針の決定に活用されることが多いです。

 

遺伝学的検査の流れ

遺伝学的検査を受ける場合は、主治医から大学病院のゲノム診療科などに紹介となり、以下のような流れで行われます。

①遺伝カウンセリング

②採血

③遺伝子解析(1か月~半年程度、検査の種類による)

④結果開示

⑤結果を治療へ応用

 

遺伝カウンセリングってなに?

さっそく遺伝学的検査を受ける!・・・前に、まず「遺伝カウンセリング」を受ける必要があります。

「遺伝カウンセリング」、聞きなれない言葉ですよね。

遺伝カウンセリングは、認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医など遺伝を専門としたスタッフが、

・家系図の確認

・遺伝子とはどういうものか?通常の検査とは何が違うのか、何がわかるのか、そしてその結果がどのように影響するのか

・結果をどの程度まで知らせてほしいか(自分だけに知らせてほしい、目的としている遺伝子以外に重大な変化があった場合に知りたいか?など・・・)

を理解してもらうために、1時間ほど時間をかけ行うものです。

とくに家系図の確認は非常に詳しく聞かれますので、事前に血のつながった方がどんな病気があるか、何歳ごろ亡くなったのか、などの情報は確認しておく必要があります。

 

なぜここまで慎重にやるかというと、遺伝学的検査は以下のような特殊性があるからです。

厚生労働省資料:遺伝カウンセリングと「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について

 

不変性(ふへんせい)

遺伝子は、本人がいくら努力しても、一生、変わることがない。

 

共有性(きょうゆうせい)

病気の原因になる遺伝子がわかったら、本人だけではなく、子どもや家族など、血縁者にも影響が及ぶかもしれない。

 

予見性(よけんせい)

病気の原因になる遺伝子がわかったら、今はまだ発症していなくても、今後ほぼ100%起きることがわかってしまうかもしれない。

 

上の3つはメリットにもデメリットにもなりえます。

なので、本当に検査を受けたいかどうかよく考えて受けなければいけません。また、カウンセリングを行った後、すぐに解析を受けなければならないという事はありませんし、いったん保留にして、よく考えた後にやっぱり検査を受けることもできますし、やめることもできます。

 

実際、カウンセリングを受けて検査をやめられる方も多いです。

 

遺伝子解析

ご本人が受ける検査自体は本当に普通の採血です。特別な準備や手間はかかりません。健康診断などでやる採血と全く一緒です。

採取された血液の「白血球」からDNAを集め、国内外の専門の検査機関に送られ解析が行われます。遺伝子解析にはいくつかの方法がありますが、最近は「遺伝子パネル解析」「全エクソン解析」「サンガー解析」などの解析方法が主流です。

遺伝子変化が特定された場合、専門家によって、変化が病気の原因になるかどうかが判定され、レポート形式で返信が返ってきます。

だいたい1か月~半年程度を要することが多いですが、検査の種類によります。

 

遺伝カウンセリング(解析後)

 

遺伝子解析の結果レポートが帰ってきたら、また遺伝カウンセリングが行われます。今度の遺伝カウンセリングでは、主に返却された結果をどう解釈するかの説明が行われます。

 

・結果の意味

ご本人の遺伝子に見つかった変化が、どのように病気に関係しているのか、その詳細を説明します。

 

・治療や予防策について

結果に基づいて、どのような治療が可能なのか、予防が必要なのかを話し合います。

 

・家族への影響

見つかった遺伝子変化の種類によって、ご家族へ遺伝確率や発症率が変わります。具体的に何パーセントの確率で遺伝する可能性がある、などが伝えられます。

 

遺伝子検査の結果が患者さんやその家族にとって思わしくなかった場合、結果を聞いた瞬間に泣き崩れてしまう、という場合もあります。

 

さいごに、遺伝学的検査の結果は「診療情報提供書」いわゆる紹介状として主治医へも報告して、今後の診療に役立ててもらいます。