今回は単一遺伝子による糖尿病の研究でとても有名な,Andrew Hattersley(アンドリュー・ハタースレイ)教授とMaggie Shepherd(マギー・シェパード)教授が主催するポッドキャストラジオ"One in six billion(60億分の1)" のエピソード2について解説していくよ.
60億ある(six billion)遺伝子対のうち,たったひとつの変化(one)が原因で発症する糖尿病「単一遺伝子による糖尿病」にちなんだポッドキャストだワンね.
One in Six Billion ポッドキャストの紹介
<左: マギー・シェパード教授,右:アンドリュー・ハタースレイ教授>
One in six billion は、糖尿病における遺伝学のあらゆる側面について情報を提供することを目的としていますが、特に珍しい遺伝型の糖尿病に焦点を当てています。私たちは、患者の声を非常に重要視しながら、この問題のあらゆる側面を伝えようと努めています。
ホストはエクセター大学のAndrew Hattersley教授とMaggie Shepherd教授です。 お二人はエクセター大学での糖尿病遺伝学研究・診断サービスの立ち上げに携わっており、現在では世界中からサンプルを集めています。現在までに111カ国からサンプルを受け取っている!
ポッドキャストは、アップル・ポッドキャスト、スポティファイ、その他すべてのポッドキャスト・プラットフォームで視聴可能です。新しいエピソードが到着したら、確実に更新されますので、ぜひご購読ください。隔週で配信されます。
https://1in6b.com/ より(DeepLで日本語化)
"One in Six billion podcast"のエピソード1「ジャック君」では,赤ちゃんの時に糖尿病を発症したジャック君とそのお母さんをゲストに配信が行われました.
発症当時はインスリンによる治療を受けていましたが,血糖の乱高下がひどく生活に大きな支障が出ていたというジャック君.
遺伝子解析により,「KCNJ11遺伝子変化による新生児糖尿病」という診断を受け,インスリンから内服薬による適切な治療に変えることができました.
その結果,生活を大きく変えることができ,人生が変わった喜びを患者目線で配信されていました.
さて,今回はそのKCNJ11遺伝子が新生児糖尿病の原因であることをつきとめたアナ・グロイン教授をゲストにポッドキャストを配信しています.
アナ・グロイン教授は,当時,ハタースレイ教授の下でポスドク(博士号を取得した後の研究者)として働いていました.
新生児期に糖尿病を発症した家系のDNAサンプルを集め,KCNJ11遺伝子変化が新生児糖尿病の原因であることを世界で最初に報告した研究者として非常に有名です.
その後,KCNJ11による新生児糖尿病の研究がすすみ,大量スルホニルウレア療法が有効ということがわかり,精密医療の対象疾患として認知されました.
アナ・グロイン教授は現在,スタンフォード大学にて小児科および遺伝学の教授として勤務しています.Anna L Gloyn's Profile | Stanford Profiles
今回のポッドキャストの内容は,そのアナ・グロイン教授がKCNJ11が新生児糖尿病の原因になるという論文を発表した当時の状況と,糖尿病遺伝子を研究することのやりがい・喜びについて語っています.
Podcastへのリンクはこちらから↓
AIによるまとめはこちら。
ポッドキャスト「One in Six Billion」の第2回エピソードでは、スタンフォード大学のアナ・グロイン教授を迎え、彼女が新生児糖尿病の原因遺伝子を発見した経緯を詳細に紹介します。
グロイン教授はオックスフォード大学で2型糖尿病の分子遺伝学を研究し、その後エクセター大学に移り、膵臓のベータ細胞に関連するカリウムチャネルの遺伝子変異を調査しました。彼女の研究チームは、新生児糖尿病患者のDNAサンプルを解析し、同じ遺伝子に共通するスペルミス(変異)を発見しました。
研究の過程で、彼女は異なる遺伝子変異が糖尿病だけでなく、学習障害や発達遅延、てんかんなどの神経学的問題も引き起こすことを明らかにしました。
特に注目されたのは、膵臓のベータ細胞に存在するカリウムチャネルの機能不全が糖尿病の発症に直接関与していることです。
この発見は、遺伝子変異がインスリン分泌にどのように影響を与えるかを理解するための重要な手がかりとなりました。
さらに、この発見はスルホニル尿素薬という2型糖尿病の治療薬が、新生児糖尿病の治療にも有効である可能性を示唆しました。チームは、これらの変異を持つ患者に対して薬を試験し、その結果インスリン分泌が改善されることを確認しました。
この研究成果は2004年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表され、世界中の注目を集めました。
このエピソードでは、グロイン教授がどのようにして遺伝子変異を発見し、それを臨床応用に結びつけたかを詳述しています。
彼女の研究がどのようにして多くの患者の生活を変えたかについても語られています。研究には多くの科学者、臨床医、患者が協力しており、チームサイエンスの重要性が強調されています。彼女の発見は、新生児糖尿病だけでなく、他の遺伝性糖尿病の治療にも新たな可能性を開きました。
グロイン教授は研究を進める中で、各国の臨床医との協力を通じて、多くの患者サンプルを収集しました。
特にメキシコでの世界糖尿病会議で出会った小児科医ジャン・ブルーニングとの協力が大きな鍵となりました。彼のネットワークを通じて、世界中からサンプルが集まりました。グロイン教授は、これらのサンプルを解析し、遺伝子変異を特定しました。
この発見により、遺伝子変異が糖尿病だけでなく、学習障害や発達遅延などの神経学的問題も引き起こすことが明らかになりました。
これにより、患者の治療法の開発に新たな道が開かれました。スルホニル尿素薬が新生児糖尿病の治療に有効であることが示され、これが患者の生活に大きな変化をもたらしました。
研究の成功は、グロイン教授を中心としたチームサイエンスの成果であり、多くの科学者、臨床医、患者の協力によって実現しました。このエピソードでは、グロイン教授の研究がどのように行われ、どのようにして臨床治療に結びついたかについて詳しく語られています。彼女の発見は、新生児糖尿病だけでなく、他の遺伝性糖尿病の治療にも新たな可能性を開き、多くの患者の生活に大きな影響を与えました。
なお,このエピソードで紹介されていたグロイン教授によるNew England Journal of Medicineの記事はこちら.
今回のエピソードで筆者がとても印象に残ったのが,
"we've been able to take it from the lab and actually make a difference to patients and that's been incredibly rewarding."
「研究室から持ち出したもの(結果)が実際に患者さんに変化をもたらすことができることは,信じられないほどやりがいのあることだと思う」
という言葉です.
MODYをはじめ単一遺伝子による糖尿病の方は,多くが1型糖尿病あるいは2型糖尿病と誤診され,不適切な治療を受けているのが現状です.
遺伝子解析で正しい診断を行うことで,正しい治療を行うことができますし,なによりその患者さんの人生が変わります.
我々医療者が行うことは,その患者さんの人生を決めるかもしれない.
そう思いながら診療・研究を行っていきたいものです.
この日本語解説記事は,2024年4月に開催されたSGGD Exeter 2024にてAndrew HattersleyとMaggie Shepherdご本人がたより日本語化の直接の許可をいただき作成しております.寛大なご対応をいただきこの場で感謝申し上げます.