この論文をひとことでまとめると:
2型糖尿病患者において,HbA1cが目標内でも変動が激しい場合,合併症リスクが増加する.
最近の研究で,1日の血糖変動が大きいほど,糖尿病合併症の発症リスクを上げることがわかってきました.
血糖の日内変動は,医学用語でMAGE(mean amplitude of glycemic excursions)とよばれます.
たとえば上の図では,AさんもBさんも1日の平均血糖は一緒(HbA1cは一緒)ですが,Bさんは血糖の振れ幅が多く,高血糖・低血糖の時間が存在します.
振れ幅が大きい状態のことを,MAGEが高いと表現します.
MAGEが高いほど,糖尿病の合併症発症リスクが上がると報告されています.
ただ,MAGEの測定には,リブレなどで持続的な血糖測定が必要となります.
HbA1cは,簡便に測定できる過去1-2ヶ月の血糖コントロール指標ですが,HbA1cの振れ幅もMAGE同様に影響があることが報告されました.
Comparative predictive ability of visit-to-visit HbA1c variability measures for microvascular disease risk in type 2 diabetes
2型糖尿病患者におけるHbA1cの変動は細小血管障害の予測となりえるかの検討
○背景:
- HbA1cのコントロールで細小血管障害が抑制されることは,これまでの多くの研究で報告されている.
- しかしながら,HbA1cの変動と細小血管障害との関係は不明であり検討を行った.
○方法:
- 2011年1月1日から2017年5月1日の間に, National Cheng Kung University Hospitalにて継続的にHbA1cが継続測定された2型糖尿病患者を対象にした.
- この期間でHbA1cが継続して測定されていない患者は除外した.
- 平均HbA1c(HbA1c-MEAN), HbA1c標準偏差(HbA1c-SD),
HbA1c-MEANに対するHbA1c-SDの比であるHbA1c変動係数(HbA1c-CV),
HbA1cが0.5%以上変動した回数(MVS)を指標とした. - Primary Outcomeは細小血管障害の発症(糖尿病網膜症,糖尿病腎症,糖尿病神経障害)とした.
○結果:
(文献 表1より引用)
- 平均HbA1c(HbA1c-mean)よりも,HbA1c-CV(平均HbA1cに対する変動)が,細小血管障害発症リスクと強い相関を認めていた.
- HbA1cが7.5以上の患者に比較し,HbA1cが7.5未満の患者の方が,HbA1c-CVに対する細小血管障害の発症に強く相関を認めていた.
○結論:
- HbA1cの変動は,特にHbA1cが7.5%未満の患者において,強い細小血管障害のリスク因子になる.
HbA1cが目標内にあっても,なるべく平坦で推移させるよう意識しましょう.先日の記事でも取り上げた「季節性の変化」には要注意です.
記載:2020年9月20日